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この脈絡のない頭の中には漫画の事とたぬき的哲学がある。略して「たぬ哲」。
2024/05/18 (Sat)14:24
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2010/09/22 (Wed)01:24

心はすれ違い続け、愛は伝わらない。

これは人間の心という、不確かで曖昧で流動的なものを17巻かけて描いた傑作。

半端ない作品。すごすぎてうまくお伝えできるか不安。
ていうか、私がちゃんとこの話しを理解してるか不安。
読み終わった後は、草原にいって大の字で寝ころんで星を見てしまうような気分。
そんで静かに泣いてしまうような気分。

愛とはなんなのかっていう究極を考えずにはいられない。

主人公のジェルミは母の再婚相手のグレッグに、性的虐待を受け心が崩壊していきます。
そして、ある日事故に見せかけてグレッグを殺してしまう。
それを知った義兄のイアンはジェルミを責めるが、ジェルミの告白によって父・グレッグが
義弟にしてきたことを知り、崩壊したジェルミを愛によって救おうとする物語です。

ジェルミは、大きな傷によって心と体を繋げる回線が切れてしまっています。
だから言葉と行動がうまく繋がらなくて、周りを混乱させる。
大きなショックを受けると心は、いくらでも単体で切り離す事ができる。
そして切り離した心は、なかなか繋ぐ事ができないとこの漫画には描いてある。

14巻にこの作品を象徴する言葉が書かれています。

『どんな理由づけよりも感情は強い そして感情は紆余曲折する』

まさに、人間の心とはこういうことだと言わんばかりの一文。

だから矛盾は際限なく起こり、その理由を探し続ける。
みんな理由づけしたいんですよ。感情と行動を矛盾なく繋げたい。
でも理屈を越える感情が、時々襲ってくる限りそれを一番に感じてしまうのが性です。
その結果、自分が思わぬところに着地しちゃう事なんてザラにあるわけで、
皆そうなんだから、そんなの他の誰かにわかるわけないんですよ。
他人をわかろうとすると、この矛盾とずっと戦い続けないといけない。

人なんてわかんないんだって、しょうがないんだって、と思いながら
それでも愛してるぞって思えたら、それが一番最高。
だけど、その器は若いイアンにはまだないんですよ。

だから二人はぶつかり続けていきます。

ただでさえ、感情と行動を繋げる事のできない矛盾だらけのジェルミと
その矛盾を理解できず、自分の感情をコントロールできないイアン。
唯一の救いはお互いを好きだと思う気持ちだけは共通してるという事。
でもそれ、全然救いじゃないんですよ!

愛の捉え方が全然違うと、もう好きだって気持ちは共通項じゃなくなると思った。

例えば「愛してるから一緒にいたい」と「愛してるから一緒にいたくない」
は同じ愛なのに、絶対交わることのない愛で、
愛の定義が違えば、それはもう愛として認識できないんだなぁ…
愛なんて曖昧なものの価値観は、それぞれ違って当たり前だけど、
それでも世の中の人が仲良くやってんのは、遠からずみんな愛の定義が似てるからなんだと思う。

ジェルミのように、
愛は人を傷つけるもの。セックスは罰。だから自分にはできない。欲しくもない。
と思ってる人とどうやって愛し合うのか。もう誰もわかりません。

それでも、自分の罪を知っていて傍にいてくれる人の存在は大きい。
それが好きな人であるなら尚更。
壊滅的な関係に見えて、イアンがいなかったらジェルミは死んでたと思う。まじで。
この辺は多分理屈じゃないなぁ。

ジェルミの切れた回線を必死に繋ごうとするイアンは、救いようのないように見えるけど
人の心が変わり続けるなら、絶対の絶望もそこにはないと思う。

読み終わった後は、すげー絶望すんだろうなと思ってたんですけど、違ったんですよね。
退廃美特有の心地よさもあったけど、そういうのがよかったんじゃなくて、
傷つき疲れた二人が、急に幸せになれるわけはないんですけど
変わらない事と、変わっていく事が良くも悪くもあって、
それがいいように作用することもあるんだろうと何か感じる事が出来たんですよね。
生きるってそういう事だと思うので。

こんだけ個性が強い作家なのに、作品の中にはエゴをまったく感じない。
キャラクターの気持ちだけがそこにある。だから繰り返すし、うまくいかない。
それを作品として昇華させるのはすごいテクニックです。
人の心の仕組みをわかっているとしか思えない。

神か!

この作品、興味深すぎる。
人間に興味あるなら読む事をお薦めします。

この完成度は普通じゃない。もう、流石としか言えないよ。萩尾先生。





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